夜明け前

島崎藤村の「夜明け前」(新潮文庫)を読んだ。未読だったのだけれど、飯嶋和一が田中優子との対談で好きな日本の小説として「夜明け前」をあげていたこと、8月末に木曽音楽祭を聴きに出掛ける際に馬籠宿を訪れる予定があることといった理由から読み始めて、3か月ほどかけてこの長い小説を読了した。飯嶋和一はディテールが丁寧に描かれているとコメントしていて、そのコメントは飯嶋和一の作品にこそ当てはまるように思えるのだけれど、飯嶋和一が「夜明け前」から受け取ったものがあろうことは感じられるような気がした。この作品の登場人物の多くは江戸末期にあらかた人格を形成した東山道筋や江戸で暮らした庶民たちで、その人たちの目から見た江戸末期から明治初期の日々の暮らしや、明治維新を挟む時代の大きな動きを想像しながら読書する時間を過ごせたことは、楽しみであり、またこれからの時代に向けた学びでもあったと思う。鎖国を終えて開国し、明治維新を挟んで近代化を進めていった時期の市井の人たちが何を感じ、何を考え、どう行動していたのか、どんな達成があり挫折があったのか、歴史的な出来事やリーダーの視点に偏りがちな多くの作品とはまた違った角度でこの時代を見つめる機会を得られたことが、この作品を読んだことの大きな収穫だったように思える。馬籠宿を訪れてこの作品を振り返ることを楽しみにしている。