つくるよろこび 生きるためのDIY

東京都美術館で「つくるよろこび 生きるためのDIY」を観た。公式サイトを見て、鬼海弘雄の「ペルソナ」のような趣を感じた野口健吾の「庵の人々」を観てみたいと思って出掛けたのだけれど、会場に入ってまず出会った若木くるみの展示で身近な物を使って創った版画?作品のパワーとユーモアに思わず笑みがこぼれ、続く瀬尾夏美の展示では、ひとりの作家が長い時間をかけて吸収して再構築した東日本大震災、被災地、そしてそこで生きる人たちの手触りに深い説得力を感じた。そんな具合で「庵の人々」に辿り着くまでに十分に充実した展覧会を味わった気分になってしまったのだけれど、野口健吾の写真についても、個々の作品やその被写体も多くを語りかけて来るのだけれど、それだけでなく複数の作品を通じて作家の生活、暮らし、人柄、時間が語りかけてくるような、そんな魅力のある展示になっていたと思う。最後の展示コーナーで、会場スタッフの方から鉛筆と付箋を渡されて「11歳の時の思い出を書いてみませんか」と声をかけられたのだけれど、暮らしに新鮮さや豊かさをもたらすような詩的な言葉を書けるわけもなく、凡庸なコメントを残してしまった。凡庸で幸せな子供時代の毎日でした、とでも書いておいた方が良かったかもしれない。

今日から5年目

特別な日に始めたわけではなく、思い立って準備が整った日に始めたので、このサイトの誕生日を意識することもなく、いつのまにか2年目、3年目、4年目に入っていたのだけれど、今日でこのサイトを立ち上げてから4年が経ち、5年目に入ることになった。日記を書き続けられたことがない自分が、殆ど読む人がいないこのサイトを4年も続けてこられたのは、基本的に楽しかったことを書いてきたからかもしれない。このサイトを作るのも楽しい遊びのひとつで、これからも続けていけたらと思っている。

野反湖

来月に22歳を迎える我が家のミニバンが実家で余生を送ることになったので、最後にドライブに出掛けようということで、妻と次女と自分の3人で早朝に自宅を出て日帰りで野反湖に行ってきた。生憎の曇り空だったけれど、涼しく過ごしやすい気候で、湖畔を周回するコース沿いにはたくさんのリンドウが花を咲かせていた。ランチは野のやで三昧そばをいただき(市川團十郎親子が取材に来ていた。)、草津の大滝乃湯に立ち寄ってから帰宅した。中之条ビエンナーレに立ち寄る予定だったのだけれど、妻が合わせ湯で湯あたりしてしまい、今回は見送り。できれば会期末までに足を運んでみたいと思っている。



彼女たちのアボリジナル・アート

アーティゾン美術館で「彼女たちのアボリジナル・アート」を観た。地域は異なるけれどもカリブ海諸国の地域性、植民地支配、人種、女性といった問題に光を当てる中村達の本を読んでいることもあって、この展覧会にも足を運んでみようと思って出掛けたのだけれど、そういった文脈はいったん忘れた上で、それぞれの作品が持つ魅力を楽しむ時間を過ごすことができた。特に90年代前半のイングワリィの作品が持つ点描の美しさと奥深さ、そしてサリー・ガボリの作品の天衣無縫な迸るパワーに魅了された。それから、今回の展覧会に限らないことだけれど、アーティゾン美術館は美術を愉しむ空間としての魅力も秀でている印象がある。とはいえ2年ぶりの訪問になってしまったので、もう少し頻繁に訪れてみたいと思う。

エミリー・カーマ・イングワリィ「アルハルクラ(II)」(1992年)

ルイジ・ギッリ 終わらない風景、他

東京都写真美術館で「ルイジ・ギッリ 終わらない風景」、「PEDRO COATA INNER VISIONS」、「トランスフィジカル」の3つの展示を観た。ルイジ・ギッリの写真は、被写体や構図以上に、まず彩度を抑えたややドライな色彩に目が行き、撮影者の遊び心ある好奇心のようなものも感じたのだが、展示を観終える頃には写真の余白に味わいを感じているのではないかと思えてきた。考えてみると、見えているものを記録する写真に作為のない印象的な余白を生み出すことは、簡単なようで難しそうだ。ちょっと自分でも試してみたいと思ったりした。ヴィム・ヴェンダースが机の傍らにルイジ・ギッリの写真を飾っていたらしいので、ポスト・カードを買って帰ろうかと思っていたのだけれど、会期末間際になってしまったこともあり完売していた。同時に開催中の「PEDRO COATA INNER VISIONS」は、会場自体を作品として仕上げる企画で、ペドロ・コスタの作品も印象的だったのだけれど、ジェイコブ・リースの写真からリアルな風景の持つ力のようなものを感じた。「トランスフィジカル」は、最後に訪れた3つ目の展示ということもあって、やや盛り沢山に感じられたのだけれど、ここでもやはり演出された作品よりも、例えばBon Danceを撮影した岩根愛の作品のようにリアルな風景の持つ力を引き出した写真に惹かれた。