響きの森クラシック・シリーズVol.89

文京シビックホールで川瀬賢太郎が指揮する東フィルの「響きの森クラシック・シリーズVol.89」を聴いた。1曲目は中学1年生の天野薫をソリストに迎えたモーツァルトのピアノ協奏曲第9番で、ソリストとオケの初々しさが感じられる音を楽しみつつ、第2楽章の何とも言えない寂しさなど、天野薫が年齢を重ねたらどんな演奏をするのだろうと思いつつ、20歳でこの曲を作ったモーツァルトの天才に改めて唸らされた。矢代秋雄の小品「夢の舟」がアンコールに演奏された後、2曲目は竹澤恭子をソリストに迎えたブルッフのヴァイオリン協奏曲第1番で、堂々とした演奏だったのだけれど、何となくモーツァルトのインパクトが脳に残ってしまっていて、今ひとつ演奏に入りきれなかった。アンコールはバッハのパルティータ第2番第3曲。休憩を挟んで3曲目はドヴォルザークの交響曲第8番で、やや重心が高めに感じられる解像感のあるオケの響きを楽しみながら、聴衆を楽しませてくれる要素が満載の曲だなぁなどと思いつつ、仕事でお付き合いを頂いた方が好きな曲だったと聞いていたこともあり、ローリング・ストーンズも好きだった亡くなられたこの方のことを思い出しながら聴くことになった。それぞれに異なる魅力のある演奏が5曲も続いて、盛りだくさんのコンサートだった。

昨日から6年目

そういえばと思ってこのサイトの初日を確認すると、昨日がこのサイトの誕生日だった。5歳になり、6年目に入ったことになる。全く意識していなかったことなのだけれど、ショスタコーヴィチの誕生日にこのサイトを始めたようで、Wikiを見てみるとフォークナーも9月25日生まれだった。ちょっと嬉しい。

モルゴーア・クァルテット

浜離宮朝日ホールでモルゴーア・クァルテットの「ショスタコーヴィチ 生誕120年祭」を聴いた。7月に聴いたTCPO・高関健・荒井英治のコンチェルトが素晴らしかったので、このコンサートを楽しみにしていたのだけれど、期待に違わず充実したコンサートだった。ショスタコーヴィチを聴くと、理不尽な世の中に耐え闘う勇気をもらえるような気がするのは自分だけだろうか。(戸澤哲夫が平均年齢を引き下げても)平均65歳のクァルテットのエネルギッシュで揺ぎ無い音楽を聴くと(藤森亮一が弦を切る熱演!)、自分もまだまだ頑張れるだろう、頑張らないと、という気がしてくる。演奏された弦楽四重奏曲第3番、第8番、第12番は、どれも聴いていて緊張が途切れない曲であり演奏だったのだけれど、やはり8番が一番身体に馴染んだような気がする。荒井英治がアフタートークで二桁番号の弦楽四重奏はどの曲も深く大きいと話すのを聞き、アンコールに演奏された若い頃に作曲された黄金時代のポルカの屈託のない音(しかし所々にショスタコーヴィチ的な響きを感じられる)を聴いたこともあって、時間をかけて年代順に四重奏曲を聴いていってみたいと思ったりもした。この日の会場は自由席だったのだけれど、ほぼ完璧に近く満席だった。

ルックバック

TOHOシネマズ宇都宮で是枝裕和監督の「ルックバック」を観た。知人がこの映画の制作に関わっていたこともあり、早めに映画館に足を運びたいと思っていたことと、シルバーウィークに一日くらいは東京を離れてみようか、という企画が結びついて奥さんと宇都宮の映画館で観ることになったのだけれど、有名餃子店の数時間待ちの行列に並ぶ気にはなれず、二荒山神社の参拝やオリオン通りの散歩だけではやや物足りない、そんな気分を一気に吹き飛ばしてくれる素晴らしい映画だった。図式的に眺めると、外向的で読者を楽しませることを得意として歓びを感じる顔と、内向的で職人的な技を大切にする顔、そんな両面の出会いが作品を生み出していた幸福なアマチュア時代をプロとなったクリエイターが振り返り、当時の自分からなぜ作品を創り続けるのかを問われる、その問いに向き合うことを引き受ける、そんな印象を受けるのだけれど、そうした図式的な理解には還元できない魅力がこの映画にはたくさん詰まっていて、ひとつひとつを挙げていくと限がないのだけれど、個人的な大切な想いを丁寧に磨きあげて形にしたものを受け取ったという気持ちになるひとつの大きな要素は、舞台となっている秋田の風景なんだろうな、と思う。奥さんもこの映画のことが好きなようで、東京に戻る帰りの車の中や、帰宅してお酒を飲みながらいろいろと話したりして、そんな時間を過ごしながら、今の自分が振り返ることができる昔の自分はどこにいるんだろう、自分にも窓に貼りつけられるお札があったりするだろうか、そんなことをぼんやり考えたりした。それから、今回は生憎のお天気で宇都宮を十分には楽しめなかったので、次回はもっと宇都宮や栃木の魅力を堪能したいと思っている。

第73回日本伝統工芸展

今年もまた日曜美術館で開催を知り、日本橋三越まで第73回日本伝統工芸展を観にいってきた。昨年に続いて8月末に木曽音楽祭に出掛けてきたからか、特に木工の作品に心を惹かれて、作品数が多い欅の様々な表情を眺めていると、栃、楓、松、榧、黒柿など欅とは異なる雰囲気を感じさせる木々にも様々な表情があるのだろうと想像されて、そのそれぞれの味わいと、それを引き出す技を深く楽しめるようになれたら素敵なことだろうなぁと思えてきた。また、木工に限らず、心を惹かれた作品の作家さんを毎年追いかけられたら、そこからも楽しみを増やせるように思えた。日本工芸会のサイトが充実しているので、ここから楽しみを広げていくことができそうなのだけれど、来年以降に向けた備忘のために、今年の出展作品で惹かれた作品を書いておくと、川北良造、藤塚松星、村田樹彦の木竹工、伊勢﨑淳、小枝真人、平岡朋美の陶芸、岡弘美の人形、安達征良の硝子、近藤亮平の金工、それから日曜美術館でもお馴染みの室瀬和美の漆芸などなど、他にも多くあるのだけれど、来年以降も多くの魅力的な作品に出会えるだろうことを楽しみにしている(7月に亡くなられた伊勢﨑淳氏(人間国宝)のご冥福をお祈りしたい。甥にあたる伊勢崎四兄弟の作品はいくつか日々使わせて頂いている。)。