民藝の100年(東京国立近代美術館)

東京国立近代美術館で「民藝の100年」展を観た。母から若い頃に柳宗理のオフィスに椅子を届けた時の話を聞いたり、実家に柳宗理デザインの物がいくつかあったりして、民藝という言葉には幼い頃に初めて触れた記憶がある。学生時代から駒場の日本民藝館に何度か足を運び、柳宗悦の「民藝とは何か」などの書籍を読み、数年前には松本民芸館を訪れる機会もあった。今回の展覧会も楽しみしていたところ、コロナ禍もあり会期末の訪問となってしまったが、1910年代から約半世紀の民藝運動の全体像を伝えようとする力の込められた展示で、学ぶところが多く、また時代との関わり方についても考えさせられた。もっとも、自分は一点一点の工芸品が語りかけてくる小さな聲に耳を傾けるような体験を好むこともあり、そういった視点からは、今回の展覧会は、個々の作品以上に、社会的な潮流としての民藝運動を描くことに力点が置かれているような印象も受けた。近いうちに改修された日本民藝館にも足を運んでみたいと思う。

くらしのアナキズム

松村圭一郎著「くらしのアナキズム」(ミシマ社)を読んだ。2、3年前に鶴見俊輔の「方法としてのアナキズム」を読んでから「アナキズム」という言葉が心に留まっていることもあり、朝日新聞の書評で知ったこの本を書店で購入してあったのだが、読んでみると、鶴見俊輔だけでなく、ここ数か月の間に読んだ「反穀物の人類史」や「無縁・公界・楽」、これから読もうとしている「負債論」、この他にも自分が興味を持って読んできた本が取り上げられていて、自分の関心と、東京大学の入試問題に採用される文章を書く碩学の関心が重なり合うようにも感じられ、勇気づけられた。権力に委ねず、また搦め捕られずに、自分たちの問題を自分たちの問題として考え、解決していく能力や仕組みをどうやって手に入れるか、「アナキズム」の本質はそんな問いかけの中にあるような気がする。

2022年1月は120キロ

2022年1月の月間走行キロは120キロだった。10キロのジョグが身体的にも気分的にも大分楽になってきた。今月はキロ7分近いゆっくりペースだけれども20キロを2回走ったので、2月は25キロを一度走ってみようかと思う。

12万円で世界を歩く リターンズ

下川裕治著「12万円で世界を歩く リターンズ」(朝日文庫)を読んだ。1988年の貧乏旅行のルートを30年後の2018年に再訪した旅行記で、1990年に出版された「12万円で世界を歩く」は、文庫化された頃、自分が1997年6月から1年間のアジア旅行に出かける前に読んだ記憶がある。長旅に向かう熱病を昂じさせた本といえば、中学生の頃に読んだ犬養道子著「アメリカン・アメリカ」(文藝春秋)所収の「P、K、Rその他」というエッセイがあり、大学に入ってから読んだ「深夜特急」があり、その他にも多くの本や映画、旅の経験もあった。そうして出かけた1年間の旅で、自分が何を頂いて、これから何を返せるのか、自宅のソファーに寝転んでそんなことを想いながらこの本を読んだ。それにしても、思い返してみると、随分と遠ざかってしまったような気もするけれど、あの1年間は美しかった。

焼肉ドラゴン

昨年12月5日放送のNHKプレミアムステージを録画した「焼肉ドラゴン」(作:鄭義信 、演出:梁正雄・鄭義信)を観た。2008年4月に新国立劇場小劇場で行われた初演の録画で、今年の映画・演劇の1本目はこれにしようと思っていたのだが、落ち着いて観られる時間が取れずに今日が1本目となってしまった。男と女、家族と血縁、民族と言語、国家と個人、健常者と障碍者、差別と抵抗、いろいろな軸が複雑に混じり合いながら笑いと歌と喧騒の中でそれぞれの役を演じる俳優達がそれぞれの魅力を全開にして劇場の空気と観客を揺さぶる、そんな感動が画面からも感じられた。こういう演劇を劇場で観てみたい。映画も未見なので、観てみようと思う。