群像短篇名作選(1946-1969)

群像短篇名作選(1946-1969)(講談社文芸文庫)を読んだ。1年程前に神保町の書店にふらりと入って水村美苗の「日本語で読むということ」などの文庫本数冊と一緒に「群像短篇名作選」3冊をレジに持って行ったところ、1冊2300円(3冊で6900円)という文庫本らしくない価格に「おっ」と思ったのだが、引っ込みもつかずに購入し、本棚に積んであった最初の1冊を引っ張り出してきて読んでみたのだが、作家18人の18篇を年代順に並べたアンソロジーを読むのは初めてかもしれず、一人の作家の短篇集を読むのとはまた違った興味深さを感じられたように思う。1946年から1969年の18篇を読んで感じたのは戦争の存在感かもしれない。それは戦争を直接扱った作品だけでなく、戦争が登場しない1969年の「骨の肉」(河野多恵子)や「蘭を焼く」(瀬戸内晴美)にもある種の「不在」あるいは「軽さ」や「寄る辺なさ」の感覚として影を落としているように感じる。1970-1999年と2000-2014年の2冊からはどんな印象を受けるのか、また、時代が下るほど読んだことがない作家の短篇が増えるので、初めて出会う作家の文章に触れられることも楽しみだ(今回初めて読んだ原民喜の文章は刺激的だった。)。

六本木クロッシング2022展:往来オーライ!(森美術館)

森美術館で「六本木クロッシング2022展:往来オーライ!」を観た。「六本木クロッシング」は森美術館が2004年から3年に一度開催してきた日本の現代アートのシリーズ展だが、2019年は観に行っていない。今回観に行ったのは、大竹伸朗展を観て、今のアートに触れてみたいという気持ちが強まったからかもしれない。22組の作家の作品を2時間程度かけてそれぞれ楽しませてもらったのだが、全体的な印象として、アイディアを形にするまでの時間が短く速くなっているように感じた。それは技術の進歩であり、また時代のスピード感覚かもしれない。例えば、ビーバ/彫刻家/自動切削機の「彫刻」を並べたAKI INOMATAの作品には、それぞれの「彫刻」に流れる時間の差異を感じさせられたが、機智に富んだその作品の時間の流れは速い。写真や映像の作品も、数年をかけて制作されているとしても、データを電気的あるいは化学的に形に変換した作品にはやはり時間の短さや速さを感じる。それに対して青木千絵の何かを孕んだ身体を漆で表現した作品や呉夏枝の織物の作品には、その素材や技術が培われた長い時間を感じることができる。どちらが良いわけでもなく、どちらもあって嬉しいのだが、森美術館の広い窓から東京の街を見下ろしながら、長い時間と膨大な記憶を身体に溜めて凝縮した上で発散するような作品に接したいと思ったりした。残念ながら週末の美術館はやや空いていたのだが、様々な挑戦をされているアーディストに接する機会を作っていただいたことに感謝したいと思った。

大竹伸朗展(東京国立近代美術館)

東京国立近代美術館で「大竹伸朗展」を観た。そこまで気になってはいなかったのだが、会期末間近になってNHKの「21世紀のBUG男 画家 大竹伸朗」の再放送を観たことで俄然観に行きたくなり、即座にチケットを購入して最終日に出掛けてきた。何というか、大量の物たちが大竹伸朗を通過して作品になっていくその流量、時間、情熱のボリューム感に打たれると共に、その作品や物たちの多弁かつ雄弁でどこか静謐な存在感に眩惑される場所だった。また、特に冒頭に展示されていた初期の作品たちから印象を受けた悩みや試行錯誤の跡にも勇気づけられた。足を運んで良かったと思うし、若い世代を中心に多くの人たちが来ていたことも嬉しかった。今日で会期末を迎えてしまい、子供たちに足を向けるよう薦められなかったことが少し残念だ。

2023年1月は65キロ+Walk

2023年1月の月間走行距離は65キロだった。月半ばに再度アキレス腱を痛めて10日間ほど走れなくなってしまったことを考えると、まずまずのペースだろう。正月に実家で両親と観た箱根駅伝で、父親や妹の母校である中央大学(今年、近所に法学部が引っ越してくる。)が活躍していた姿に刺激を受けたのかもしれない。ランニングとは関係ないけれど、箱根駅伝の番組で放映されたサッポロビールのCMで反田恭平が最愛の箇所と言って弾いたショパンのピアノコンチェルト第1番第1楽章終盤の再現部の数小節が、妻が好きな箇所と一緒だったという話を妻にしたことから、この箇所が好きになったのはN響アワーで聴いた若いピアニストの演奏だった、あの曲の最高に素敵な演奏だったという話になり、ネットで調べてみたところ、このピアニストがヤン・リシエツキで、今年の春祭で来日することを知って、チケットを購入することができた。4月7日のコンサートが楽しみである。

三枝伸太郎 Orquesta de la Esperanza

としま区民センター多目的ホールで「三枝伸太郎 Orquesta de la Esperanza x Akiko Nakayama」の公演を聴いた。新聞の折り込み広告で開催を知り、2019年夏の三枝伸太郎&小田朋美の公演を三女と聴きに行ったり、ちょっと大変だった2021年に一番聴いた音楽はおそらくCRCK/LCKSのTemporaryだったり、あるいは会場が建替え前に子供達のピティナで何度か訪れた場所だったりと、いろいろご縁を感じたこともあって出かけてきたのだが、期待していた楽曲やアンサンブルの魅力に止まらず、其々が抜群の技量と個性を備えた演奏者たちのソリスティックな魅力にも溢れた素敵なコンサートだった。(演奏と響き合う中山晃子のAlive Paintingもって魅力的だった。)会場で購入したCDも聴いてみたが、やはりライブでの生音の魅力には代え難いものがある。できれば今度はブルーノートとかで聴いてみたいなぁ、と思ったりもした。