佐藤泰志

3か月ほど前になるけれど、我が家のテレビで偶々流れていたNHKの新日本風土記「函館の光」の再放送で佐藤泰志について話している人達の映像を見ていたら、奥さんが興味を持って佐藤泰志の本を何冊かメルカリで購入し、その本を自分が読み進めることになった。読んだ作品を年代順にあげると「市街戦のジャズメン」、「もうひとつの朝」、「草の響き」、「きみの鳥は歌える」、「撃つ夏」、「黄金の服」、「オーバーフェンス」、「そこのみにて光輝く」、「海炭市叙景」となる。「きみの鳥は歌える」、「オーバーフェンス」、「そこのみにて光輝く」、「海炭市叙景」の4作は映画も観た。生前に3冊の単行本を世に出して1990年に41歳で亡くなった作家の作品が(亡くなった翌年にさらに3冊が出版された)、2010年から2022年にかけて6作品も映画化されているのは、多くの映画の製作や配給に携わった函館シネマアイリス・菅原和博を始めとする函館の人たちが佐藤泰志を大切に思っていることに加えて、時代の空気が佐藤泰志の作品を求めているところも大きいような気がする。主な作品は、1960年代と1970年代が終わり、1980年代の日本のバブル経済がピークを迎えていく頃に書かれたものだが、その視線は精神的にも経済的にも厳しい状況にある人たちに注がれている。ただ、そこにあるのは社会への怒りや人々への同情ではなく、何というか傍らにいる人の息づかい、手触りといったもの。温度があり、匂いがあり、湿度がある。1980年代の日本でこういう作品が書かれ、また読まれていたと知ることができて良かったと思うし、自分が生きて来た僅か数十年の時間軸の中でも、時が経つにつれて読み手や作品を取り巻く環境は変化するし、それによって作品も変わっていくんだよなぁ、などと考えさせられた。できれば近いうちに八戸から函館へ抜けるルートを旅行してみたいと思っていて、その時には「海炭市叙景」を再読することになりそうな気がする。映画は、それぞれの距離感で原作からある程度離れていて、いずれも魅力的だけれど、もう一度観るとしたら、自分が感じた佐藤泰志作品の魅力を一番掬い取ってくれていたように思える「きみの鳥は歌える」かなぁ。

野反湖

今年はノゾリキスゲの開花が早いようだったので、予定を1週間早めて日曜日に日帰りで野反湖に出掛けてきた。早朝4時過ぎに自宅を出て7時過ぎに野反湖に着いた。

ここのところ定番となっている湖畔一周ハイキング→草津温泉→帰宅というコースである。

ノゾリキスゲが満開に近い。

カメラを提げて写真を撮りながら1周約10キロの湖畔の道を歩いた。対岸の野反湖キャンプ場の広場でお気に入りの木を眺めながらしばらくぼーっと過ごす時間を含めて3時間弱のハイキングを終える頃には、空が晴れ上がってきた。

上原彩子のラヴェル「ピアノ協奏曲」

上原彩子が演奏するラヴェルのピアノ協奏曲が聴きたくて、ミューザ川崎シンフォニーホールに出掛けてユベール・スダーンが指揮する東京交響楽団の「名曲全集第209回」を聴いた。ラヴェルのピアノ協奏曲は、クラシックを聴き始めた頃に良く聴いていた曲で、当時はフランソワの録音を好んで聴いていた。最近、再びフランソワ、ミケランジェリ、アルゲリッチ(新旧)、ツィメルマン、ラローチャ、チョ・ソンジンといった録音を聴き比べてみたりして、やはりピアニストの個性が出る作品だなぁと感じていたこともあり、上原彩子の演奏を是非聞いてみたいと思った。上原彩子の演奏は、しなやかな気迫を感じさせつつ、凛々しく抒情的で、いいなぁと思うのだけれど、オーケストラにとっては扱いが難しい曲なのだろうか、規模を2/3程度に小さくした編成は室内楽的な阿吽の呼吸を期待させたのだけれど、第二楽章の木管(特にフルート)との掛け合いは美しかったものの、両端楽章は息の合った名演とまでは感じられなかった。もう15年前になるけれど、トリフォニーホールでアルゲリッチと新日本フィルの演奏を聴いたときも、期待したほどの感動はなかった記憶があって、やはり名演というのは役者が揃ったりお金を払えば出会えるといったものではなく、偶々出会えた時に感謝するものなのかもしれないなぁ、と思ったりもした。とはいえ、今年はラヴェル生誕150年のメモリアル・イヤーで、ピアノ協奏曲が演奏される機会も多い。高関健が指揮する東京シティフィルと務川慧悟のコンサートのチケットは出遅れて買えなかったけれど、セミヨン・ビシュコフが指揮するチェコフィルとチョ・ソンジンのコンサートのチケットは入手済み。チョ・ソンジンは今年2月に発売された録音も素晴らしかったので、10月のコンサートは名演になるのではないか?と今から楽しみにしている。

東京シティ・フィル第380回定期演奏会

東京オペラシティで松本宗利音が指揮するTCPOの第378回定期演奏会を聴いた。1曲目はドヴォルザークの交響詩「英雄の歌」、2曲目と3曲目はソリストに上野耕平を迎えたミヨーの「スカムラーシュ」と逢坂裕の「アルトサクソフォン協奏曲」、4曲目はブラームスの交響曲第2番というプログラムだったのだが、逢坂裕の「アルトサクソフォン協奏曲」が素敵だった。映画やゲームの音楽を思わせる現代性や民族的な響きやリズムも感じられる複雑さも感じられる作品の面白さもあり、また上野耕平の委嘱作品ということもあってか、上野耕平のサクソフォンの魅力が十二分に感じられる演奏だった。上野耕平は、車で聴く「×クラシック」でのMCの印象とは異なり、演奏はどことなくストイックで孤独なボクサーを思わせるような、熱く冷静な闘志を持ってオーケストラを聴きつつ、自分のスタンスでリズミカルにステップを踏み、美しくパワフルなパンチを繰り出す、そんな印象を受けた。演奏を終えた後で、来場していた作曲者の逢坂裕への拍手を求めていた姿にも好感を持てた。全ての作品を通じて、松本宗利音の指揮には、この指揮者が10年後、20年後にどうなっているのだろうと想像できる楽しさがあった。自分の音楽を情熱的に表現する諸先輩の姿を見ながら、年月を重ねるうちに、松本宗利音も自分の音楽に磨きをかけて説得力を高めていくんだろうなぁ、などと思いながらコンサートを楽しんだ。

2025年6月は5キロ+Walk

2025年6月の月間走行距離は5キロだった。右膝の痛みが取れなかったりで、走る習慣が消滅してしまったような具合で、暑さも厳しくなってきたし、トレッドミルでも取り入れてみようかと思っている。