響きの森クラシック・シリーズVol.84

文京シビックホールで横山奏が指揮する東フィルの「響きの森クラシック・シリーズVol.84」を聴いた。1曲目はソリストに中野りなを迎えたチャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲で、中野りなの伸びやかで豊かな音色のヴァイオリンが素晴らしかった。オーケストラも、21歳のソリストを温かく見守りながら丁寧に応答してソリストの魅力を十二分に引き出しつつ、曲全体の魅力をバランスよく描き出す素敵な演奏だったと思う。この顔合わせの演奏をまた聴いてみたいなぁ、今度は何が良いだろう、シベリウスか、あるいはモーツアルトか、などと考えてしまった。アンコールのバッハのパルティータを挟んで、2曲目はチャイコフスキーの交響曲第5番。こちらも何度も聴いている曲なのだけれど、やはり横山湊と東フィルの演奏の個性は感じられて、何と言うか、自然の中で手間暇かけて育てて天日干しにしたお米をかまどで炊いたごはんのような、派手さはないかもしれないけれど、丁寧で心に沁みる美味しい音楽、といったところだろうか。たくさんの指揮者がいる中で、演奏家や聴衆に向けて個性を出していくことはやはり難しいことなのだろうけれど、自分はこの演奏は好きで、横山湊が指揮する他のオーケストラの演奏も是非聴いてみたいと思っている。アンコールに演奏されたチャイコフスキーの弦楽セレナーデのワルツには、また一味違った「踊る横山湊」の魅力の片鱗が感じられて、井上道義ファンとしては、この路線の音楽も聴いてみたいなぁ、と思ったりもしている。