東京シティ・フィル第372回定期演奏会

東京オペラシティで高関健が指揮するTCPOの第372回定期演奏会でブルックナーの交響曲第8番を聴いた。第1稿・新全集版ホークショー校訂での演奏ということで、中学生の時にこの曲の総譜を初めて手に入れたという高関健のオタク的博識のプレトークを楽しんでから演奏を聴いたのだが、心に沁みる豊かな時間を過ごすことができた。指揮のことも演奏のことも良く分からないけれど、おそらく高度な技術を駆使しながらも基本的なことを大切に磨き上げて全身で音楽を伝えようとする渾身の指揮と、これを全て漏らさず感じ取って応えようする楽員の引き締まった演奏の一体感が、逞しい音でブルックナーの音楽の凄みを築き上げ掘り下げていく様に、聴覚からも視覚からも、そしておそらく会場に満ちた第六感からも心を動かされた。演奏の個性を追求するというよりも、基本に立ち返って音楽を追求することが結果として演奏の個性に繋がっていくような、そんな真っ当な力強さの中からヨーロッパの音楽が鳴り響いてくるような気もした。終演後の盛大な拍手にも、そんな演奏を心から悦び感謝する気持ちのこもった輝きが感じられた。