東京オペラシティでクリスティアン・アルミンクが指揮する広島交響楽団の「平和の夕べ」コンサートを聴いた。ピレシュのピアノが聴きたくてチケットを購入したのだけれど、軽度の脳梗塞で来日が困難になり、6月末にソリストがダニール・トリフォノフに変更され、演目もラフマニノフのピアノ協奏曲第2番に変更された。奥さんは喜んだくらいで、自分も初めて聴くトリフォノフの演奏を楽しみにしていたのだけれど、これが期待を超えて素晴らしかった。冒頭からFAZIOLIの明るく芯の通った柔らかい音色に期待が高まり、説得力のある力強いフォルテシモも、美しく粒の揃った素早いパッセージも、心地よく魅力的なルバートも、完璧なのではないかと思いたくなるほどの演奏で、鳥肌が立つ瞬間が何度もあった。ホールをひとつにして何処かに連れて行ったような圧倒的な第3楽章の後で、盛大な拍手に応えて演奏されたアンコールは、チャイコフスキーの「子供のアルバム」から「教会で」と「甘い夢」の2曲で、1曲目からは鎮魂の祈りが、2曲目からは希望と再生の励ましが感じられて、ホールに展示されてあったヒロシマで被爆した「明子さんのピアノ」とも響き合い、心に沁みる演奏だった。広島交響楽団の演奏も、ラフマニノフはピアノに寄り添う丁寧な演奏で、第1楽章のホルンや、3楽章の全体の盛り上がりは素敵だなぁと感じた。2曲目のマーラーの交響曲第4番も、自分は聴く機会が少ない曲なのだけれど、スケール感を追求するというよりも、細部まで仕上げが行き届いた演奏という印象を受けた。第4楽章の石橋栄実の歌も素晴らしかった。