はじめての、牛腸茂雄(渋谷PARCOほぼ日曜日)

渋谷PARCOのほぼ日曜日で「はじめての、牛腸茂雄」を観た。牛腸茂雄の写真を観るのは「はじめて」ではない。何度か数枚の写真を観たことはあり、その一度見たら忘れられない名前の字面が記憶に刻まれていたのだが、肝心の写真は思い出せなかった。NHKの日曜美術館「友よ 写真よ 写真家 牛腸茂雄との日々」を観て、渋谷まで写真を観に出かけることにしたのだが、期待に違わず、今回は牛腸茂雄の写真が深く記憶に刻まれることになった。特に写真集「SELF AND OTHERS」を構成する写真の展示は、写真集のページを捲るように一枚一枚を眺める時間を重ねていくと、牛腸茂雄が被写体を見た時間と、被写体が牛腸茂雄を見返した時間が、自分が写真を見る時間とまじり合って、じわじわと牛腸茂雄が愛しんだ写真と人生の切実さが伝わってくる。モーツァルトのクラリネット五重奏を感じた。最後の写真は、狙って撮った写真というよりも、たまたま授かった写真のようにも思えるけれど、友人として今回の展示のために丁寧なプリントを作った三浦和人のコメントを聞いてから観ると、この写真が撮れたこと、そしてこの写真集の最後に配されたことに心を寄せたくなる。複雑なところや、奇を衒ったところもない、ストレートな写真に見えるのだが、身体的な病疾や障碍と共にあった牛腸茂雄が情熱や愛情やユーモアを持って立ち向かった姿が記録されていて励まされた。

2022年10月は20キロ+Hike+Walk

2022年10月の月間走行距離は20キロだった。野反湖の湖畔を周回したり、都内を散歩したりしながら写真を撮り歩くなど、多少は体を動かすことがあったとはいえ、また、再度足首を捻挫して大事を取っていたとはいえ、月間20キロはちょっと反省している。気温が涼しくなって走り易いのだが、これから寒くなると足が外に向き難くなってくる。いきなり100キロに戻す気持ちにはならないかもしれないけれど、来月は50キロは超えていきたいと思う。

レオポルトシュタット(新国立劇場)

新国立劇場で「レオポルトシュタット」(作:トム・ストッパード、翻訳:広田敦郎、演出:小川絵梨子)を観た。トム・ストッパードの作品には、「未来世紀ブラジル」や「恋に落ちたシェイクスピア」などの映画の脚本として接したことはあっても、戯曲の上演を観るのは初めてで、芝居を観た経験が少なく、翻訳劇に至ってはほぼ初めてといった自分がどこまで味わうことができたのか心許ないのだが、音声を音声に変換する戯曲の翻訳は、文字を文字に変換する小説の翻訳以上に難しい仕事ではなかろうかという印象を受けた。1899年から1955年のウィーンのユダヤ人家族を描いた戯曲で、日常の幸せを楽しく描く場面も多いのだが、登場人物の多くはアウシュヴィッツ・ビルケナウ強制収容所で亡くなることになる。先日、ゲルハルト・リヒター展で「ビルケナウ」を観たこともあり、この世代のヨーロッパの知識人にとって、晩年になるまで向き合わざるを得ないアウシュヴィッツが持つ重さや意味について考えさせられた。リヒターは1932年生まれ(本田勝一、小田実、大島渚も同年生まれ)、ストッパードは1937年生まれ(別役実、古井由吉、つげ義春も同年生まれ)である。因みに自分の父親は1935年生まれなのだが(大江健三郎、高畑勲、蜷川幸雄も同年生まれ)、この世代の日本人の多くが晩年になるまで向き合ってきたことが何だったのか、一括りにまとめられるものではないけれど、ちょっと考えてみたいと思った。そんな難しい話もありつつ、そういえば、ストッパードの代表作「ローゼンクランツとギルデンスターンは死んだ」を5年前に小川絵梨子が演出した舞台では生田斗真と菅田将暉が主役の二人を演じたらしい。今回の舞台もイケメン揃いで、客席には若い女性も多かった。

マーラー交響曲第9番(ブロムシュテット/NHK交響楽団)

NHKホールでヘルベルト・ブロムシュテット指揮/NHK交響楽団のマーラー交響曲第9番を聴いた。コンマスの篠崎史紀に支えられて95歳のブロムシュテットがホールに現れただけで思わず涙が出そうになった。自分はNHK交響楽団の定期会員でもなく、ブロムシュテットのコンサートに足を運ぶのも数年前のNHK交響楽団との年末の第九以来なのだが、長年にわたりN響アワーやクラシック倶楽部などで演奏に接してきて、日本のクラシック音楽界でブロムシュテットがどれだけ敬愛されてきたかを察することはできる。演奏後の観客総立ちのスタンディングオベーションに加わりながら、悦びと感謝を感じつつ、真摯な仕事と信頼関係を積み重ねた時間が持つ重さといったものに強く心を揺さぶられた。近くの席に来ていたクラウス・マケラや、来場していた多くの音楽家の方たちにとっても、また自分のように音楽を仕事とはしない方たちにとっても、演奏を超えるものが伝わるコンサートだったのではないかと思う。

CDTV ライブ!ライブ!

家族で夕食を取りながら、テレビで流れていたTBSのCDTV ライブ!ライブを観た。90年代のヒット曲を50代前後になった歌手が演奏する映像を眺めながら、何とはなしに歳の取り方というのはあるものなのだろうと思ったりした。帯にも印刷されていたけれど、忌野清志郎が「ロックで独立する方法」(太田出版)で「自分の両腕だけで食べていこうって人が、そう簡単に反省しちゃいけない」と言っていたことを思い出した。