ヒューマントラストシネマ渋谷でポール・トマス・アンダーソン(PTA)の「ワン・バトル・アフター・アナザー」を観た。次女が卒論でお世話になり、三女がピンチョンの「LAヴァイス」の授業を受けているPTAファンの先生がこの映画を推していると聞いて、気になっていたのだけれど、この映画を観る前にと思って久しぶりに「マグノリア」を観たり、その後も「パンチドランク・ラブ」や「ゼア・ウィル・ビー・ブラッド」を観たりしていたら時間が過ぎてしまい、上映期間終了間際に映画館に足を運ぶことになった。1999₋2007年の3作と比べると、オフビート感よりも、ストレート・アヘッドな疾走感が前面に出た感じで、とはいえ、回収されないいくつものエピソードを手を振って見送りつつ、字幕のないスペイン語を訳も分からず聴き飛ばしながらの一気呵成の162分で、個性溢れる映画であることに変わりはない。上映時間の長さは感じられず、観終えて充実感と世界に向けて開かれた解放感が手元に残る感じで、元気が出る映画だった。PTAの映画に出てくる「家族」はどこか歪んでいるのだけれど、その「家族」の在り方が愛おしかったり切なかったり痛かったりする。この映画の「家族」も、どれもがさらに大きく歪んでいるのだけれど、どこか神話的な説得力があって、それがこの映画の充実感に繋がっているような気もするし、また、理解の及ばない「家族」が存在することをそのまま肯定しているトーンが解放感に繋がっているような気もする。そんなことを考えながら、年末年始を跨いでPTAの他の映画も観ていくことになりそうで、しばらくはこの楽しみが続きそうだ。