東京都美術館で「つくるよろこび 生きるためのDIY」を観た。公式サイトを見て、鬼海弘雄の「ペルソナ」のような趣を感じた野口健吾の「庵の人々」を観てみたいと思って出掛けたのだけれど、会場に入ってまず出会った若木くるみの展示で身近な物を使って創った版画?作品のパワーとユーモアに思わず笑みがこぼれ、続く瀬尾夏美の展示では、ひとりの作家が長い時間をかけて吸収して再構築した東日本大震災、被災地、そしてそこで生きる人たちの手触りに深い説得力を感じた。そんな具合で「庵の人々」に辿り着くまでに十分に充実した展覧会を味わった気分になってしまったのだけれど、野口健吾の写真についても、個々の作品やその被写体も多くを語りかけて来るのだけれど、それだけでなく複数の作品を通じて作家の生活、暮らし、人柄、時間が語りかけてくるような、そんな魅力のある展示になっていたと思う。最後の展示コーナーで、会場スタッフの方から鉛筆と付箋を渡されて「11歳の時の思い出を書いてみませんか」と声をかけられたのだけれど、暮らしに新鮮さや豊かさをもたらすような詩的な言葉を書けるわけもなく、凡庸なコメントを残してしまった。凡庸で幸せな子供時代の毎日でした、とでも書いておいた方が良かったかもしれない。