東京大学駒場博物館で「Reproductions 日本美術の復元・複製・修復」を観た。室町時代の年中行事を垣間見られるだけでなく、現代の日本美術や、あるいはマンガ・アニメにも通じる美しさや楽しさを感じる月次祭礼図屏風の復元模造など、見応えのある展示だった。友人に薦められて出掛けたのだけれど、もうひとつ理由があって、「初音の調度」(日本工芸史上最高傑作と言われる徳川家光が2歳半の娘千代姫を尾張徳川家に嫁がせた際の嫁入り道具)を紹介したNHKの日曜美術館(5月18日放送)の中で、その復元模造を手掛けている室瀬和美(漆芸(蒔絵)の人間国宝)が、オリジナルを前にしながら坂本美雨に話しかけていたことばが心に刺さっていたことも、久々に駒場まで足を運んだ理由である。ちょっと長くなるけれど、室瀬和美のことばを引用する。
「ここ(「初音の調度」の制作)に参加した技術者たちは、できる限りのことはやりたいという強い思い、気構えがあって・・・時代を背負う、そしてそれを次の世代にも伝える、伝えるためには材料や技術を勉強していく、そういことが復元模造の全体感だと思うんですね。・・・人間は長く生きても100年くらいしか生きられないですけれど、物はこういうふうに何百年も生きてくれるので、物を通して本当にコミュニケーションができるっていうのが、私たちにとっての財産ですね。・・・そして千代姫は、その作った道具によって育てられて、成長して、自分もこれを使えるだけの人になるべきっていうふうに、私は成長していくんだと思うんですね。そういうふうにしてキャッチボールすることによって、作る側も、使う側も、発注する側も、みんなが文化をつなげてゆく、その価値観っていうのは、過去も、現代も、未来も私は変わらないと思うんです。・・・だから、世の中が混乱すればするほど、もっと私はこういう純粋な気持ちで物を作る世界と、それを受けて次に渡す世界があるといいなと思っています。」