東京シティ・フィル第373回定期演奏会

東京オペラシティでTCPOの第373回定期演奏会(スメタナ:連作交響詩「わが祖国」全曲)を聴いた。高関健が指揮する姿には迷いがなく、オーケストラの音に揺るぎのない意思や逞しい技術を感じる一方で、高校生の頃に購入したという楽譜を手元に置きながら開くことはなく、これとは異なる「チェコ・フィルの伝統的なパート譜に基づく「現実演奏版」」の楽譜を暗譜で振り切る高関健の姿には、この曲でオーケストラの音楽を勉強したという若い頃の高関健の姿が重なって、その音に若さと瑞々しさの輝きが加わっているように感じられた。ステージ上だけでなく、演奏に触発された客席からもいつも以上の集中力が感じられて、それもチケット1枚ウン万円といった会場のやや尖ったオーラではなく、第二曲の終わりに思わず「ブラボー」がかかり、それを何人かの楽員の方が喜んでくれている様子が見えるような温かなオーラがあって、でもその「普通の観客」の集中力がステージ上に無音の圧力を作り出して、その温かく力強い無音とオーケストラの音とが鬩ぎ合いつつ音楽を削り出していくスリリングな空気がすぐそこに感じられるような、特に音が減衰しあるいは短く途切れる瞬間には、手に触れられるほどの切迫感が感じられるような、そんな美しいコンサートだったと思う。終演後、名勝負と語り継がれるスポーツの試合を観戦した後のような充実感があった。開場から「ブラボー」のコールとともに「ありがとう」という声も飛んでいたが、自分も含めて多くの聴衆が同じ思いだったのではないだろうか。