会田綱雄詩集

母親から頼まれて実家から持ち帰った書籍の段ボールの中に、妹が中学校の先生から卒業祝いにもらった茨木のり子の「詩のこころを読む」(岩波ジュニア新書)が紛れ込んでいて、何となく読み始めたまま最後まで読み終えてしまったのだが、その中で紹介されていた会田綱雄の「伝説」という詩に惹かれて、地元の図書館で現代詩文庫「会田綱雄詩集」(思潮社)を借りて読んだ。図書館が昭和55年に購入した本なので、表紙を捲った扉に返却日付表の小さな紙が貼られていて、一つも日付が押されていなかったのだけれど、「伝説」を含む最初の詩集「鹹湖」に漂う切迫感と緩さのある明度や彩度を抑えた空気感に魅力を感じた。会田綱雄が「伝説」について書いた「一つの体験として」という小文も掲載されていて、詩を読むだけでは知ることのない、この詩の透明な美しさを支えるその奥の深い闇に目を向けさせられた。ここ数年上海蟹の季節になるとくるりの「琥珀色の街、上海蟹の朝」を思い出していたけれど、これからは「蟹を食うひともあるのだ」と静かに語るこの詩のことも思い出すことになりそうだ。