想像上の妻と娘にケーキを買って帰る

東京都写真美術館で「遠い窓へ 日本の新進作家 vol. 22」、「作家の現在 これまでとこれから」、「プリピクテ Storm/嵐」の3つの展覧会を見た。久しぶりに観た石内都の<ひろしま>の写真に背筋が伸び、志賀理江子の写真のパワーに撃たれ、ベラル・ハーレドの手を失った少女の写真に胸を痛め、スクリプカリウ落合安奈の写真と言葉の響き合いにも刺激を受けたのだけれど、3つの展覧会を回って一番面白かったのは、寺田健人の作品「想像上の妻と娘にケーキを買って帰る」だったと思う。ゲイである寺田が画面に映らない想像上の妻子との日常のひとこまを演じる姿を撮影した一連の写真は、家族や性別のあり方が議論される今の日本の文脈で鑑賞され語られることも多いと思うのだけれど、自分が作品を観ながら感じたことは、何と言うか、自分が思い描くイメージに頼る人間の姿は普遍的なものではないのか、自分には妻も子供もいて、たまにはケーキを買って帰ったりもしていたけれど、その妻や子供は自分が思い描いていた妻や子供であって、自分の視線はリアルな妻や子供には届いていなかっただろうし、ある意味自分は想像上の世界の中にいるのではないかというマトリックス的な不安感で、おそらく作家の寺田はそんな目論見でこの写真を撮ったわけではなく、自分が勝手に不安を感じているだけなのだけれど、そんな副作用の現れ方が面白い。3つの展覧会で様々なアプローチの写真を観て、自分はどんな写真を撮りたいのか、ちょっと考えさせられた。