文京シビックホールでセミヨン・ビシュコフが指揮するチェコ・フィルハーモニー管弦楽団の演奏を聴いた。1曲目はスメタナのわが祖国からモルダウで、昨年聴いたコバケン/東フィルや高関/TCPOの演奏とはまた違って、水が小さな渦や大きな渦を巻きながら流れる様子が手に取れるような、やはり十八番のレパートリーとして練り上げられた演奏という印象だった。2曲目はチョ・ソンジンをソリストに迎えたラヴェルのピアノ協奏曲で、久しぶりに聴いたチョのピアノはやはり表現も音色もリズム感も素晴らしかった。何故か、第1楽章が始まってすぐから、15年前に聴いたアルゲリッチと新日本フィルの演奏が思い出されてきた。今年7月に上原彩子と東京交響楽団の演奏を聴いたときにはすっかり忘れてしまったと思っていた記憶が、チョとチェコフィルの演奏で呼び戻されたのか、演奏スタイルは違うし、むしろチョとチェコフィルの演奏にはやや希薄に感じられた、アルゲリッチがオーケストラと対話する魅力に思いを馳せたりしていたのだけれど、ちょっと不思議な気分だった。チェコフィルは1曲目や3曲目とほぼ変わらない全員参加型の大編成で、チョのピアノとの相性が良くは感じられなかったのだけれど、どちらかというとピアノをメインに楽しんだ演奏だった。チョがアンコールに弾いたショパンのワルツ第7番(個性が発揮された素敵な演奏だった。)と休憩を挟んだ後の3曲目はチャイコフスキーの交響曲第5番で、統率が取れた演奏というよりも、団員ひとりひとりが奏でる音楽をひとつに纏めるのだから多少の雑味が生じるのは当たり前でそれが味わい、といった雰囲気の、切れのある淡麗辛口のお酒というよりは、複雑で芳醇旨口のお酒にたとえられる演奏だったと思う。アンコールのカヴァレリア・ルスティカーナの間奏曲で、全ての弦がユニゾンで演奏する様子からは、そんなチェコフィルの個性と魅力がダイレクトに感じられたし、アンコール2曲目のドヴォルザークのスラヴ舞曲第1番では、そうしたオケのエンタメ精神が存分に発揮されていたように思える。ネットで話題になっていたチェコフィルのアジアツアーPR動画を見ていたこともあったかもしれないけれど、振り返ってみると、どちらかというと真面目な日本のオケにはあまり感じられない、実力はあろつつも大らかで気取らないチェコ・フィルの魅力が詰まったプログラムであり演奏だったように思える。PR動画の大阪人ではないけれど、チェコ・フィルが身近になって好きになるような、そんな素敵なコンサートだったと思う。