東京交響楽団第734回定期演奏会

サントリーホールでジョナサン・ノットが指揮する東京交響楽団・東京コーラス・東京少年少女合唱隊のマタイ受難曲を聴いた。まず、ソリストの歌が素晴らしかった。ミヒャエル・ナジの決然としたイエス、ヴェルナー・ギューラの温かな感情を感じさせるエヴァンゲリスト、アンナ・ルチア・リヒターの深みのあるメゾソプラノ、そしてユダやピラトを歌った加藤宏隆、65曲のアリアを歌った萩原潤、35曲のアリアを歌った櫻田亮もそれぞれに魅力のある歌を聴かせてくれたのだけれど、自分はソプラノのカタリナ・コンラディのアリアに、美しく磨きあげられた稠密な歌声とでも言えば良いのだろうか、一番の魅力を感じた。合唱も、特に第二部の迫力のある歌声は素晴らしく、オーケストラも特に後半に向けて盛り上がっていったような印象を受けた。マタイ受難曲の演奏を聴いたのは2022年のBCJのコンサート以来なのだけれど、何となく全体の構成が頭に入っていたことや、字幕がステージ後方に表示されたこともあって、今回はマタイ受難曲のドラマティックな魅力をより感じる機会になったような気がする。キリスト教世界としての生い立ちを持つ欧米の相対化が進む中で、マタイ受難曲の位置づけも変化すると思うけれど、多くの方々が様々な思いで聴いてきたこの曲の歴史には重みがあると思うし、今回のコンサートもほぼ満席で、この曲が愛されていることを改めて感じる機会にもなった。