無言館

信州上田の無言館(戦没画学生慰霊美術館)を訪れた。以前から訪れてみたいと思っていた美術館で、一昨年に次女が自転車旅行の途中で訪れていたり、昨年の夏にはテレビ東京の「新美の巨人たち」で内田有紀が紹介していたりして、早めに行きたいと思っていたところ、八ヶ岳高原音楽堂や扉温泉に出掛けることとなり、訪問の機会を得た。この美術館や展示された作品から受け取るものは、日本の戦争の歴史や家族を残しての出征や戦死といった個人の歴史と分かち難く結びついていて、特に妻や妹や祖母といった身近な人を描いた作品はそうした背景との結びつきが強いのだけれど、例えば、何の変哲もない月夜の田園風景を描いた椎野修の「月夜の田園」の前に立つと、時代背景をいったん忘れて、その絵の魅力に強く惹き付けられる。この美術館には、そうした魅力を持つ作品が多い。殆どの作家は画学生やアマチュアで、描きたいという気持ちから作品を描いた。それは身近な人を描いた作品についても同じことで、作家を創作に駆り立てた情熱に創作から80年を経た今も心を動かされるのだろう。そして、その情熱の出どころを考えるときに、思いは再び時代背景へと戻っていく。そんな円環をぐるぐると回りながら、多くの作品を対話することになった。この美術館は、また数年後に再訪することになるだろうと思う。いつまでも続いてほしい美術館である。