東京オペラシティで高関健/TCPO/TCPO CHORが演奏するヴェルディのレクイエムを聴いた。フォーレやモーツアルトのレクイエムと比べても、この曲はあまり聴いておらず、手元にある録音もトスカニーニ/NBC(1943年)だけで、このCDも最後に聴いてからおそらく10年以上も経っている。けれども、チェロの下降する短い旋律で演奏が始まって、ヴァイオリンが入って来ると、その時点でもう鳥肌が立った。タルコフスキー。ノスタルジア。熱い水を渡り終えたアンドレイに捧げられる音楽。あの旋律は映画の記憶と分かちがたくて、映画館の暗闇の重力が流れ込んでくるような感覚に包まれる。そんな曖昧な意識は「怒りの日」の圧倒的な迫力に吹き飛ばされて、その後は音楽を造り上げようとする意志が形になったような高関健の指揮と、それに全力で応えるTCPOとTCPO CHORの演奏と、素晴らしいソリストの歌に運ばれていくことになるのだけれど、第9曲でも出会うあの旋律にやはりどうしようもなく心を動かされてしまう。ソプラノの中江早希の歌は素敵だったなぁ。帰宅後、余韻の覚めやらぬ中でノスタルジアを観てしまった。