東京シティフィル第377回定期演奏会

東京オペラシティで高関健/TCPO/TCPO CHORが演奏するヴェルディのレクイエムを聴いた。フォーレやモーツアルトのレクイエムと比べても、この曲を聴く機会は少なかった。殆ど聴いて来なかったと言った方が良いかもしれない。手元にある録音もトスカニーニ/NBC(1943年)だけで、このCDも最後に聴いてからおそらく10年以上は経っているだろう。けれども、第1曲冒頭のチェロの下降する短い旋律が始まって、ヴァイオリンの音が聴こえて来ると、その時点で鳥肌が立った。タルコフスキーのノスタルジア。熱い水を渡り終えて倒れ込むアンドレイに捧げられる音楽。このレクイエムの旋律はあの映画の記憶と分かちがたく結びついていて、音楽を聴きながら映画館の暗闇が周囲に流れ込んでくる。そんな夢現の境界を行きつ戻りつしていた意識は「怒りの日」の響きの圧倒的な迫力に一気に覚まされて、その後は音楽を造り上げようとする意志が形になったような高関健の指揮と、それに全力で応えるTCPOとTCPO CHORの演奏と、素晴らしいソリストの歌(ソプラノの中江早希の歌は素敵だったなぁ)に否応なく運ばれていくことになるのだけれど、第9曲でもまた出会うこととなるあの旋律には、やはりどうしようもなく心を動かされてしまう。そんなこんなで、帰宅後、余韻の冷めやらぬままにノスタルジアを観てしまった。