NHKホールでファビオ・ルイ―ジが指揮するNHK交響楽団のベートーヴェン交響曲第九番を聴いた。年末の第九を初めて聴いたのは大学1年生か2年生の時で、家庭教師をしていたご家庭に招いて頂いてNHKホールでN響の第九を聴いた。指揮者も演奏ももう憶えていないけれど、佐藤しのぶがソリストだった。その後、子供たちがある程度育ってからはほぼ毎年いろいろな国内オーケストラの年末の第九を聴いてきた。同じ曲をコンサートで聴いた回数を数えたら、第九が間違いなく一番多いだろう。改めて考えてみると、この異形にも思える交響曲が最もよく聴かれているというのも面白い現象だと思う。作曲当時の革新性が持ち続ける勢いやパワーに加えて、耳を患ったベートーヴェンが最後に作曲したスケールの大きい交響曲で、昔から特別な機会に演奏されてきたといった物語の力もあるだろう。今回の第九は、そういったやや派手目でキャッチ―な高揚感よりも、もう少し内省的で、「楽聖」ではなく「人間」ベートーヴェンを感じさせるような、やや重心を低めに取った演奏に感じられた。そう思えたのは、時としてやや遅めに感じたテンポのせいか、アタックと比較して軽くなる演奏の語尾の優しさのせいだろうか。いずれにしてもそれぞれの奏者の確実な技量に支えられたオーケストラとしての一体感のある演奏で、やはりN響にはN響の魅力と存在感があるなぁと改めて感じた。マロ(篠崎史紀)と郷古廉の二人がコンマスとしてステージに現れた時、会場からひときわ大きな拍手が沸き上がった。マロは今年が最後のN響第九となるらしい。そんな演奏に立ち会うことができたことを嬉しく思っている。