所沢ミューズのアークホールでアラン・アルティノグルが指揮するフランクフルト放送交響楽団の演奏を聴いた。全体を通じて、オーケストラの響きの軽やかさや自由闊達さといった雰囲気が印象深かった。統率された求心的な音楽というよりも、奏者が緩やかに繋がりながらアンサンブルを編み上げているような分散的、非中心的な響きというか、輪郭線や構造というよりも、(長くフランクフルト放送響を指揮したインバルと都響の演奏にも感じることがあるのだけれど)色彩や香りのイメージを感じた。1曲目のマイスタージンガーの前奏曲に続く2曲目はベートーヴェンの皇帝で、初めて聴くブルース・リウのピアノを楽しみにしていたのだが(やはりファンが多いようで、終演後のサイン会には長蛇の列ができていた。)、テンポや強弱と呼応しつつ音の彩度やコントラストが豊かに変化する鮮やかな演奏だったと思う。伝統に則った正統派の音楽というよりも、新しい表現を求める個性や探求心、あるいは時として自由な遊び心のようなものも感じた。アンコールのチャイコフスキーの小品(あまり弾かれない曲のようだが、三女は弾いたことがあるらしい)と休憩をはさんで3曲目の展覧会の絵では、ロシア的な音楽というよりも、ラヴェルらしい多彩な響きを堪能し、アンコールに演奏されたドビュッシーの月の光には、日本との繋がりを感じたりもした。最後まで充実したコンサートで、演奏後は立ち上がって拍手や喝采を送る聴衆も多かった。実家の母を誘ったこともあり、初めて所沢ミューズに出掛けたのだが、母も妻もコンサートを楽しんでくれたようで、良い思い出になった。