インタビュー・木村俊介

木村俊介著「インタビュー」(ミシマ社)を読んだ。坂本龍一の「ぼくはあと何回、満月を見るだろう」を読んだ後で久しぶりに谷中の「古書木菟」を訪れて購入した鶴見俊輔の「埴谷雄高」を今年の春になって読んでから、埴谷雄高の作品をいくつか読むと共に、木村俊介の「変人 埴谷雄高の肖像」を読んだことが切っ掛けとなって、その後の木村俊介の仕事が気になり、「善き書店員」と「仕事の小さな幸福」を読んだ。この3冊に掲載された木村俊介のインタビューは読みやすい。取材対象者の雰囲気や人柄を想像しつつ、その話す内容や語り口を味わうことができる。この3冊と比べると、インタビューをすること自体について書いたこの本は、文章に身を任せて分かったように読み進めることを許さない、何と言うか柔らかい拒絶のようなものを、特に後半について感じた。インタビューという仕事の内容について語る前半は、人の話を聞いて文章にまとめるという作業を伴う仕事もそれなりにある職業に就いていることもあり、頷きながら読み進める箇所も多かったように記憶している。前半と比べると、現在の社会におけるインタビューの困難さや、インタビューという仕事を長年続けることにより得られる可能性を巡る後半には、方向の分からない森の中をコンパスを持たずに歩き回るような、いつのまにか同じ場所に戻ってきたようで少し違う場所を歩いているような、読み終えても自分がどこに向かってどこをどう歩いてきたのか把握できず、森の匂いや雰囲気だけが記憶に残されているような印象を受けている。こうした語り口を選んだ書き手の企みを十分に味わうためには、再読、再々読が必要になるのかもしれないけれど、それはしばらく先になりそうな気がする。それまでの間に、表舞台には上がらない「へたな言葉」や「武骨な声」で語られたこと、そもそも語られなかった「無言の声」や「沈黙する人たち」の積み重なった記憶が、この本とはまた異なる形で表現された文章に出会える機会があったら、是非手に取って読んでみたいと思う。