狗賓童子の島

飯嶋和一の「狗賓童子の島」(小学館文庫)を読んだ。久しぶりの飯嶋和一である。飯嶋和一を知ったのは一昨々年の秋に日経新聞の文化欄に掲載された「始祖鳥記」を紹介する記事だった。その後「出星前夜」、「始祖鳥記」、「雷電本紀」、「汝ふたたび故郷へ帰れず」、「神なき月十番目の夜」、「黄金旋風」と作品を読んできて、出版順に読んではいないものの、年を経るにつれて作家の筆が冴えてくる様子を感じていた。そして、今回の「狗賓童子の島」、1年ぶりの飯嶋和一にどんな作品だろうかと期待するところが大きかったのだが、前半までを読んだ時点では、「前作を超える最高傑作!」といった印象は持てなかった。読了しても、そういった印象はない。しかし、この作品には、今までの作品よりもやや引いた視点から、温かさと苦さの入り混じった視線で様々な人生や社会を眺める静かで清んだ味わいがあるように感じられて、それが複雑な経路を辿って身体に沁みてくる。「出星前夜」の出版時に飯嶋和一は55歳、「狗賓童子の島」の出版時は62歳、この年齢の違いがもたらしたものだろうか。あるいは書き下ろしではなく連載で書かれたことも影響するのだろうか。どうにもならない制約の下で生きる人たちのそれぞれの「我欲」と「善意」が「不幸」と「分断」を生じさせる様を描いたこの作品の魅力は、おそらく自分がこれから年齢を重ねることでさらに増していくような気もする。「出星前夜」を読む前から島原の乱には興味があり、南島原を旅してみたいと思い続けてきたのだが、「狗賓童子の島」を読んで、隠岐の島もいつか訪ねてみたいと思っている。