雨とベンツと国道と私

東京芸術劇場シアターイーストでモダンスイマーズの「雨とベンツと国道と私」(作・演出:蓬莱竜太)を観た。東京芸術劇場のHPで3000円で観られる良さそうな芝居があることに気付き、何の予備知識もなくチケットを購入し、蓬莱竜太が数年前にNHKのプレミアムシアターで観た「まほろば」の書き手であることも観劇の前日に知った。夕方まで激しい雨が降っていたのに、劇場は満席で、自分のように一人で来ている客が多く、世代も性別もばらばらで、こういう観客を呼べるというのは素敵なことだよな、と芝居が始まる前から思ったりした。芝居は、いっぱいいっぱいで精一杯生きている人たちを、優しい目線で、楽しく、深く描いていて、8人のキャストのうち3人は女性なのだけれど、全体的にどことなく「男子っぽさ」を、壊れていくY染色体を抱えた不完全な男子の滑稽さと愛おしさを感じた。男性キャストだけでなく、主演の山中志歩の演技からくる印象もあったかもしれないし(「五味栞の恋」のシーンは男子の初恋っぽいテイストがあって、特に雨のシーンは好きだ。)、映画を巡る芝居であったこともあったかもしれない(好きな映画として名前があがっていた「薔薇の名前」、「未来世紀ブラジル」、「マッドマックス」、「ギルバート・グレイプ」、「ベティ・ブルー」とか、同世代(の特に男子)を感じる。)。パワハラやSNSやコロナなど、最近の話題や問題もあるのだけれど、最後に心に残るのはそれぞれに自分の全部を乗っけて走っている大人たちの姿で、その余韻がこの芝居の記憶となっている。それにしても全席自由席3000円は、観客のお財布に優しくてありがたいというだけでなく、値段が高ければ良いものだと安易に考えがちな世の中に静かに物申しているようで、じわっとかっこいい。