ファーザー

映画「ファーザー」(フロリアン・ゼレール監督)を観た。フロリアン・ゼレールの「Le Fils 息子」の舞台を観て、これから「La Mère 母」の舞台を観るタイミングで、3部作のひとつ「Le Père 父」の映画版を観たのだが、これは面白い映画だった。認知症を患う老境の父親という家族や社会の課題を素材として描きつつ、認識や記憶という人間の根幹に関わる不穏さや不安を美しく静かな室内映像で綴っていく時間は知的にスリリングで、最近、東京都写真美術館で記憶に纏わる展示を観たことや、響きと怒りを異なる翻訳で再読していることもあってか、いろいろと好奇心や思考を掻き立てられた。舞台と比較すると映画は情報量が多く、舞台では余白を含めて場の雰囲気や気の流れを全体として味わっているように改めて感じられる一方で、映画では(観てきた本数が多いからかもしれないけれど)細部に目が行く、特にこの映画では俳優たちの一瞬一瞬の表情を味わっていたように感じる。メインキャストのどの俳優も素晴らしかったと思うのだが、この映画の屋台骨を支えるアンソニー・ホプキンスの凄みには改めて感銘を受けた。老境の「父」に「母」を探させたフロリアン・ゼレールが、どんな「La Mère 母」の舞台を書いていたのか、今から舞台が楽しみである。