中平卓馬 火-氾濫

東京国立近代美術館で「中平卓馬 火-氾濫」を観た。いろいろな機会に中平卓馬の名前や写真、文章に接することはあっても、まとまった数の作品をクロノロジカルに観たことはなかったので、時代を背景にした作家の遍歴を感じらる良い機会だった。改めて向き合うと自分には抽象度が高いと感じられた第1章「来るべき言葉のために」の「アレ・ブレ・ボケ」の写真から、「事物が事物であることを明確化することだけで成立する」方法を目指す「植物図鑑」の宣言を経て、急性アルコール中毒による記憶喪失後のある意味突き抜けた印象を受けるカラー写真へと変わりゆく姿が思い返してみてもやはり印象深く、特に晩年の写真には、その写真だけを見てもなかなか感じることができない魅力を味わうことができたように思う。画面上で鑑賞される古びることのないデータとしての写真が溢れる状況の中で、50年前にプリントして展示された「氾濫」と2018年に新たにプリントされた「氾濫」を観る機会を得て、物としての写真や技術について考えさせられたことも、貴重な体験だった。