月の岬

東京芸術劇場シアターウエストで unrato#11「月の岬」(演出:大河内直子)を観た。公式サイトを眺めた程度で何の予備知識もないままに、何となく良い芝居になりそうという勘を頼りにチケットを買って一人で出かけてきたのだが、じわっと来る芝居だった。自らが招いた不幸な事故から父親を早くに亡くした姉と弟が、おそらく不幸に耐えながら懸命に守ってきた家庭があって、その家庭が弟の結婚を機に変容していく。その様子がひと月程度の時間軸の中で描かれるのだが、説明的な台詞は少なく、登場人物は皆それぞれの人生を生きていて、またそれぞれに異なる接点で交わっているので、ある人物にとって他の人物は余白が多く、その余白の多さの集積が観客に提示されつつも、その余白にはある種のまとまりというか、トーン、雰囲気がある。家族、人間関係、その歴史、家(家族の一員のような家!)、着物、島、そのほか様々なものに互いを呼び寄せ合う重力のようなものがあって、それが温かくもあり、また苦くもあるのだろうと思う。2時間の芝居があっという間で、終演後ももう少しあの世界に止まっていたい名残惜しさが残った。戯曲デジタルアーカイブに戯曲があったので、しばらくしてから読んでみたいと思う。