巨匠とマルガリータ

ブルガーコフ著、水野忠夫訳「巨匠とマルガリータ」(岩波文庫)を読んだ。面白かった。1930年代に書かれた作品だが、初読の自分にとっては小説の地平を拡げていくような新しい魅力に満ちた読書だった。尽きることのない荒唐無稽でエネルギッシュな饒舌の底に、知的に冷めた情熱が静かに流れているような、一筋縄ではいかない重層的な声が感じられる。コロナの床につきながそれなりに時間をかけて読了したのだが、やはりこの作品には800頁分の言葉が必要なのだろうという納得感も感じている。1930年代に作曲されたものの1961年まで初演されなかったショスタコーヴィチの交響曲第4番を聴いた昨年秋の群響東京公演のパンフレットの記事が、同じように1966年まで(完全な形では1973年まで)活字にならなかったこの作品について触れていた。ごく短い言及だったけれど、この作品を読む切っ掛けをもらったことに感謝している。