スローターハウス(serial number)

東京芸術劇場シアターイーストで「スローターハウス」(作・演出:詩森ろば)を観た。津久井やまゆり園の事件やヴォネガットの小説から着想を得て書かれた戯曲は、優性思想に基づいて知的障碍者を殺害した未成年だった若者と、出所した若者を事件から10年後に訪ねて来た被害者の母親が交わし合う言葉を中心に構成された約90分の会話劇で、母親の最後の言葉に向かって様々な葛藤と格闘、逸脱と回り道が繰り広げられるのだが、果たして母親の最後の言葉にどれほどの重さやリアリティがあったのか、今も良く分からない。優性思想の論理で身を鎧う若者に対して、生の実感や自分の気持ちを確かめながら言葉にしようとする母親は、目的を持って若者を訪ねて来たはずなのに頭も気持ちも整理できずにいて、そこに誠実さを感じるのだが、その母親が辿り着こうとした場所の言葉にどれだけの速度や質量があったのか、母親が若者に投げかけた言葉のかたまり、あるいは母親が若者を訪ねて来たという事実が、若者を、そして自分を、どれだけ動かしているのか、未だに量りかねている。