これだけはわかってる(tsp NextStage)

東京芸術劇場シアターウエストでtsp NextStageの「これだけはわかってる-Things I Know to be True」(作:アンドリュー・ボヴェル、演出:荒井遼)を観た。登場人物は60歳前後の夫婦、30歳前後の長女、長男、次男と19歳の次女の6人、シンプルなセット、殆どのシーンは初夏になると善良な父親が手入れした薔薇が咲き誇るアデレード近郊の庶民的な家の庭で、1年間の家族の変化が会話とモノローグで描かれる。それぞれの役柄・役者から、舞台では直接的に語られることのない歳月、悩み、魅力、そして家族の外の世界との繋がりが感じられて、余白の広い脚本の構成と相まって、家族の在り様に思いを致しつつ、家族の外側でのそれぞれの暮らしや、その先にいる家族以外の人たちにも想像力が広がっていった。冷静に振り返ると、6人が6人とも、普通の人ではなかなか耐え難いような不幸や困難を抱えていて、その不幸や困難を家族が少しずつ分かち合っているのだが、こういったある意味では非現実的なまでに不幸で困難な状況をどう描くのか、脚本を書いたアンドリュー・ボヴェルはバズ・ラーマンと「ダンシング・ヒーロー」の脚本を書いた人だと知ったが、笑いの要素は控えめで、かといってリアリティや重さは持たせ過ぎない、そんなバランスの取り方が難しそうに思えた。遠からず夫婦の年齢に達する自分には考えさせられる台詞も多く、結婚してそろそろ四半世紀、3人の子供達はみな20歳を迎え、両親は共に80歳を超える歳になって、家族について「これだけはわかってる」と信じられることがどれだけあるのか、振り返りつつ考えてみたりしている。