渇水

久しぶりに映画館に出掛けて「渇水」(高橋正弥監督)を観た。映画.comで上映中の映画を眺めて、キャストの顔触れや監督の経歴からこの映画にあたりをつけ、図書館で借りた原作(電子書籍!)を読んでから観に行ったのだが、誠実な映画だと思った。映画では舞台が前橋市になっていて、90年代に2年近くを過ごしたあの街に懐かしさを感じたし、姉妹が暮らす木造平屋建ての戦後の文化住宅といった趣の家屋にも、そういえば前橋で家を探しをしたときに、こうした一戸建ての家賃が市の中心部に近いワンルームよりもかなり安いことに驚いたことなどを思い出した。主人公が頻繁に煙草を吸っていたり、「テロ」という言葉を臆せずに口にしたり、「コンプライアンス」への配慮や忖度からはある程度距離を置いている雰囲気を感じるのだが、結末は、原作から変えたかったのか変えざるを得なかったのか、良く分からない。映画のような結末もあるとは思うのだが、原作の永遠に満たされない渇きの手触りは長く記憶に留まるかもしれない。
余談だが、TOHOシネマズ日比谷のロビーは、吹き抜けの天井に届く広大なガラス窓一面に日比谷公園から皇居へと続く豊かな緑と爽やかな夏空の景色が広がっていて、東京でも第一級の風景が庶民の娯楽に惜しげもなく振舞われていることに嬉しさを感じつつも、80年代の名画座の暗闇で映画を観続けた自分には眩しすぎて、この風景とトレードオフで何かを失っているのではないかといった思いが頭を掠めたりもした。