セレンディピティ(東京都写真美術館)

東京都写真美術館で「田沼武能 人間賛歌」と「TOPコレクション セレンディピティ」の2つの写真展を観た。ある意味で対照的な写真展だったようにも思える。田沼武能の写真展は、被写体を撮る=現実を見つめる好奇心、共感、歓びを多くの人と共有しようとする欲動が真直ぐに現れた写真家の仕事を率直に紹介するストレートな魅力に満ちた展示だったと思う。片やTOPコレクションの今回の企画は、写真を撮る≠現実を写すという写真も含めて、様々なアプローチの写真を偶然性の観点から振り返って編集した展示で、図録で紹介されている「ぶらぶらモード」のおもしろさがあった。そもそも写真はその場に居合わせた撮影者の偶然の幸運(セレンディピティ)を表現していたはずだが、無数の撮影者の数多のセレンディピティがネットから溢れ出している現在では、むしろ写真と出会うことや写真を選び出すことにセレンディピティを見出すことになるのかもしれない。パブリシティの面だけでなく、写真の魅力を創造する面でも、写真家(作品の個性)よりも編集者(そして検索エンジンやAI)がパワーを持つ時代が来ているようにも感じた。(世界中の広範な地域から過去10年間に撮られた田沼武能的な写真を集めてきて並べることはAIでもできるだろう。)そうは言いつつも、自分は2つの写真展を回りながら写真家の個性を楽しんでいたと思う。(初めて観た吉野英里香の写真に魅力を感じた。これもセレンディピティか。)会場に来られていた幅広い世代の人たちも多くのセレンディピティを持ち帰られたのではないだろうか。