わが町(東京演劇道場)

東京芸術劇場シアターイーストで「わが町」(作:ソーントン・ワイルダー、演出・翻訳:柴幸男)を観た。上演機会が多い有名な作品らしいので戯曲を読んでから行こうかと思いつつも、チケットを購入したのが直前だったので間に合わず、ネットで見つけた英文の第一幕を斜めに読んだだけで観ることになったのだが、斬新な演出であることはすぐに分かった。生者は役者が人形を受け渡しつつ入れ替わりながら演じ、死者も役者が入れ替わりながら演じられる。第二幕のジョージとエミリーの場面は人形が登場する映像に役者がアテレコを入れ、第三幕の後半のエミリーの台詞は複数の役者がタイミングを微妙にずらしながら発声するため言葉があまり良く聞き取れない。キャラクターが特定の役者の身体と結びつかず、戯曲の言葉が劇場に浮遊しているような印象を受けた。改めて戯曲(鳴海四郎訳)を読んでみると、台詞はほぼ同様でも、随分と違った芝居が感じられる。1938年2月4日のヘンリー・ミラー劇場での「わが町」の初演は、当時としては革新的な芝居だったらしい。その歴史を受け継ぐ斬新で独創的な「わが町」を観られたことを嬉しく思う一方で、鳴海四郎の訳者あとがきや水谷八也の訳注を読みながら、今回の芝居とはまた違った「わが町」を観てみたいとも思っている。100年前よりも生者と死者のコントラストがかなり薄められ、また「わが町」と呼べる空間も失われつつある時代と向き合おうとすると、もはや「わが町」の芝居にはならないのかもしれないけれど、そんな芝居も観てみたいと思う。