しびれ雲(KERA・MAP #010)

本多劇場で「しびれ雲」(作・演出:ケラリーノ・サンドロヴィッチ)を観た。瀬戸内あたりにあるらしい梟島の集落に暮らす人たちの日常のスケッチを積み重ねてひとつの世界を創り上げた芝居で、役者の話す独特の方言がその世界の背骨を作り、また人情味の薫る空気を生み出していたように感じた。記憶を失った客人、記憶を失いつつある老人、手紙と誤解、逃走と帰郷、結婚と家族、様々な要素とキャラクターが自然な笑いと「ごめんちゃい」を交わしあう柔らかなトーンに包まれていて、芝居を観ていた間よりも、芝居を振り返っている今のような時間の方が、何故かその世界を身近に感じてしまうような、そんな手触りがある。芝居初心者の自分は、KERAの芝居を観るのも初めてで、場面転換や舞台を割るリズム感も新鮮に感じられた。
全くの余談だが、10年以上ぶりで訪れた下北沢の駅周辺を少し散歩して、珉亭のラーチャンを食べてから芝居を観たのだが、90年代に2年ほどこの街で暮らしていた頃から随分と街の雰囲気が変わったように感じた。自分も歳をとって変わったのだろうと思いつつ、つい変わらないものも探してしまいたくなるような散歩だった。