伊福部昭とショスタコーヴィチ(井上道義/NHK交響楽団)

NHKホールで井上道義指揮/NHK交響楽団の演奏で伊福部昭のシンフォニア・タプカーラとショスタコーヴィチの交響曲第10番を聴いた。滑らかなモノクロームの美しくグロテスクで不条理な夢の中に誘い込まれて彷徨うようなショスタコーヴィチの第1楽章に魅了され、その後の楽章も時折その余韻を感じながら、75歳とはとても思えない井上道義のエネルギッシュな指揮から紡がれるN響の演奏を楽しむことができた。ショスタコーヴィチの複雑さに少し触れられたように思えた悦ばしい経験だった。ショスタコーヴィチの前に演奏された伊福部昭の交響曲も素晴らしかったが、音楽を聴きながら、日本・アイヌの音楽がオーケストラという表現の手段を得たのか、オーケストラが日本・アイヌの音楽という表現の素材を得たのか、「非西洋音楽」の立ち位置について考えさせられてしまった。コンサートの後で渋谷駅に向かう坂を下りながら、自分自身が、伊福部昭よりもショスタコーヴィチの演奏により繋がりを感じイメージを喚起されていたように思えて、音楽に止まらず、日本人としての在り方について考えさせられることになった。