はじめての、牛腸茂雄(渋谷PARCOほぼ日曜日)

渋谷PARCOのほぼ日曜日で「はじめての、牛腸茂雄」を観た。牛腸茂雄の写真を観るのは「はじめて」ではない。何度か数枚の写真を観たことはあり、その一度見たら忘れられない名前の字面が記憶に刻まれていたのだが、肝心の写真は思い出せなかった。NHKの日曜美術館「友よ 写真よ 写真家 牛腸茂雄との日々」を観て、渋谷まで写真を観に出かけることにしたのだが、期待に違わず、今回は牛腸茂雄の写真が深く記憶に刻まれることになった。特に写真集「SELF AND OTHERS」を構成する写真の展示は、写真集のページを捲るように一枚一枚を眺める時間を重ねていくと、牛腸茂雄が被写体を見た時間と、被写体が牛腸茂雄を見返した時間が、自分が写真を見る時間とまじり合って、じわじわと牛腸茂雄が愛しんだ写真と人生の切実さが伝わってくる。モーツァルトのクラリネット五重奏を感じた。最後の写真は、狙って撮った写真というよりも、たまたま授かった写真のようにも思えるけれど、友人として今回の展示のために丁寧なプリントを作った三浦和人のコメントを聞いてから観ると、この写真が撮れたこと、そしてこの写真集の最後に配されたことに心を寄せたくなる。複雑なところや、奇を衒ったところもない、ストレートな写真に見えるのだが、身体的な病疾や障碍と共にあった牛腸茂雄が情熱や愛情やユーモアを持って立ち向かった姿が記録されていて励まされた。