汝ふたたび故郷へ帰れず

飯嶋和一著「汝ふたたび故郷へ帰れず」(小学館文庫)を読んだ。先月「雷電本紀」を読み終えた時に、飯嶋和一は今年はあと一冊だけを選んでゆっくり読もうと決めていたのだが、つい手が伸びてしまい、言い訳がましく表題作だけを読んで、所収の他の2作は読まずにいたのだが、野反湖で風雨に降り篭められた車の中で「スピリチュアル・ペイン」と「プロミスト・ランド」も読んでしまった。デビュー作の後者は熊を撃つマタギの話しだが、自分が小学校2年生の思い出ぶかいひと夏を過ごした山形県の西川町が舞台となっていた。西川町には母の実家や伯父伯母の家があり、妹の出産のために自分と弟を預かってくれたので、夏休みをまるまる従兄姉たちと遊び暮らすことになったのだが、自分にとっては今も忘れられない大切な思い出がぎっしりと詰まった夏になった。あの夏の数年後には祖父母が他界し、何を話しかけられているのか方言が全く分からずショックを受けた大叔父や大叔母も他界し、お世話になった伯父伯母もここ数年で他界したが、自分にとっての心の「故郷」の一つである場所と飯嶋和一のデビュー作にちょっとした縁が感じられて、嬉しかった。読み終えた後で野反湖を一周し、東京に戻る前に野反湖休憩舎でコーヒーを飲んだところ、熊の牙と爪をぶら下げたストラップが売られていたので、思わず購入してしまった。