始祖鳥記

飯嶋和一著「始祖鳥記」(小学館文庫)を読んだ。去年の秋に日経新聞の文化欄の紹介記事でこの小説を知り、数日後に書店を回った時はどこも売り切れだったので、代わりに「出星前夜」を求めて読み、この作家に敬意と好意を抱いた。飯嶋和一の小説では、該博な知識に裏付けられた昔の人たちの暮らしを囲む様々な物たちの細部の描写に魅せられ、気骨ある登場人物のキャラクターに泣かされる。「始祖鳥記」では、エンジンのないメーヴェに乗った幸吉が天明の日本に風を巻き起こす。その風の余韻が、飯嶋和一の想像力と語り口に乗って、この令和の世の中でも多くの人たちの心の中で確かに吹いている。そう思って、また泣かされた。