東京シティ・フィル第350回定期演奏会(マーラー交響曲第9番)

東京オペラシティで高関健指揮/東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団のマーラー交響曲第9番を聴いた。この作品をコンサートで聴いた回数はこれで5回目かと思うが、我が家にあるCDを数えてみると23の録音が手元にあった。1つの作品としては断トツで多い。その中でも、高関健指揮/群馬交響楽団の録音は折に触れて何度も聴いたCDで、今回のコンサートも以前からとても楽しみにしていた。コンサートの前のプレトークで、マーラーはこの曲を作曲した頃は心身ともに壮健だったように思えると高関健が話していたことが心に残っていたのか、今回の演奏は、回顧や惜別といったイメージよりも、分厚い筋肉を身に付けた逞しい存在が、年月を経る中で生とそして死と対峙するような、何か人間の尊厳を思わせるような演奏に感じられた。コロナ禍やウクライナの情勢がそういった感想をもたらしたのかもしれない。演奏後の長く、大きく、温かい拍手は、この演奏への聴衆の心からの共感と賛辞だったと思う。CD化が検討されているようであり、この作品の大切な録音がまたひとつ増えることになりそうで嬉しい。

コンサートから2年余り経ってから、この演奏のCDを聴いた。CDの音はホールで聴く音よりも解像度が高く、それも大きな響きや物語を高解像度で描き出すというよりも、大きな響きや物語に回収されないそれぞれの楽器の演奏、音が高解像度で立ち上がってくるように聴こえた。改めてコンサートと録音は別のものという印象を深くしたのだが、録音を聴くことでコンサートのアプローチが改めて感じられるというか、新たに気づかされることもあるように思えた。