あーぶくたった、にいたった(新国立劇場)

新国立劇場(小劇場)で「あーぶくたった、にいたった」(作:別役実、演出:西沢栄治)を観た。別役実の「小市民シリーズ」の一作と紹介されているように、「小市民」的な2組の夫婦が年月や立場、記憶をずらしながら10の場面を演じるのだが、「小市民」という言葉から自分が連想する慎ましい食卓を囲む温かさのようなものは希薄で、交じり合わない日常的な会話から非日常的な展開が生じて笑いが起きることもあるけれど、同時に「恨み」のような苦い基底音が鳴り続いているような気がする。第一場で運動会の後の夕方の風の匂いを感じながら自分たちの未来を語っていた夫婦は、その未来のいくつかを微妙にずらしながらなぞった後に、第十場で同じ匂いを感じながら、自分たちは生きていること自体を申し訳なく感じていて、いつの間にか不幸せに生きようと決心をしてしまっていたんだと振り返る。そして、雪に埋もれて自分たちの「いやな匂い」を消したいと願う。二人が雪に埋もれた後も、どこかで夕方の風が吹いている。