出星前夜

飯嶋和一著「出星前夜」(小学館文庫)を読んだ。日経新聞の夕刊で「始祖鳥記」を紹介する記事を読み、未読だったこの作者の本を読んでみたいと思った。書店では「始祖鳥記」が売り切れていたので、「出星前夜」を購入し、二週間ほどで読み終えたのだが、多くの登場人物がそれぞれに深い印象を残す作品だった。こういう読書の愉しみには、やはり700頁という文章の厚みを共に過ごす時間が必要なのだろうと改めて感じさせられた。題材とされている島原の乱については、数年前に神田千里著「島原の乱」(講談社学術文庫)や、五野井隆史著「島原の乱とキリシタン」(吉川弘文館)を読んだが、書物によってこの事件の印象は異なる。島原の乱で命を落とした数万の人たちと、あの事件を心に抱えて生き延びた無数の人たちの想いも、それぞれに違っていただろうと思う。いつかゆっくりと島原半島を訪ねてみたいと思った。