ヴィヨンの妻

「ヴィヨンの妻」(根岸吉太郎監督)を観た。原作を読んで、そういえば映画があったはずだと思い出し、DVDをレンタルして観たのだが、何と言うか、愛情をもって丁寧に作られた映画という印象が残った。小料理「椿屋」の美術とお客の役者さんたち、そして店主の伊武雅刀と室井滋の夫婦が土台となって、その上で松たか子と広末涼子の役柄と演技の魅力を存分に引き出して撮る。男たちは、浅野忠信、堤真一、妻夫木聡の3人が難しい役柄を抑えた演技で女たちを支える。吉松隆の音楽も寄り添いつつも控えめで、こうして振り返ると女性俳優の魅力を撮る映画だったように思えてくる。1947年出版の原作には、戦争を生き残った男と女が磁場や重力の乱れた世間を生きるある種の時代の雰囲気を色濃く感じるのだが、2009年公開の映画は、原作とは少し違った人間ドラマ的な趣の光でこの作品を照らしてくれているように思う。